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十一 - 19

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「昔(むか)しスペインにコルドヴァと云う所があった……」

「今でもありゃしないか」

「あるかも知れない。今昔の問題はとにかく、そこの風習として日暮れの鐘がお寺で鳴ると、家々の女がことごとく出て来て河へ這入(はい)って水泳をやる……」

「冬もやるんですか」

「その辺はたしかに知らんが、とにかく貴賤老若(きせんろうにゃく)の別なく河へ飛び込む。但(ただ)し男子は一人も交らない。ただ遠くから見ている。遠くから見ていると暮色蒼然(ぼしょくそうぜん)たる波の上に、白い肌(はだえ)が模糊(もこ)として動いている……」

「詩的ですね。新体詩になりますね。なんと云う所ですか」と東風君は裸体(らたい)が出さえすれば前へ乗り出してくる。

「コルドヴァさ。そこで地方の若いものが、女といっしょに泳ぐ事も出来ず、さればと云って遠くから判然その姿を見る事も許されないのを残念に思って、ちょっといたずらをした……」

「へえ、どんな趣向だい」といたずらと聞いた迷亭君は大(おおい)に嬉しがる。

「お寺の鐘つき番に賄賂(わいろ)を使って、日没を合図に撞(つ)く鐘を一時間前に鳴らした。すると女などは浅墓(あさはか)なものだから、そら鐘が鳴ったと云うので、めいめい河岸(かし)へあつまって半襦袢(はんじゅばん)、半股引(はんももひき)の服装でざぶりざぶりと水の中へ飛び込んだ。飛び込みはしたものの、いつもと違って日が暮れない」

「烈(はげ)しい秋の日がかんかんしやしないか」

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