「ええ、それから八木先生がね、今日(こんにち)は御婦人の会でありますが、私がかような御話をわざわざ致したのは少々考があるので、こう申すと失礼かも知れませんが、婦人というものはとかく物をするのに正面から近道を通って行かないで、かえって遠方から廻りくどい手段をとる弊(へい)がある。もっともこれは御婦人に限った事でない。明治の代(よ)は男子といえども、文明の弊を受けて多少女性的になっているから、よくいらざる手数(てすう)と労力を費(つい)やして、これが本筋である、紳士のやるべき方針であると誤解しているものが多いようだが、これ等は開化の業に束縛された畸形児(きけいじ)である。別に論ずるに及ばん。ただ御婦人に在(あ)ってはなるべくただいま申した昔話を御記憶になって、いざと云う場合にはどうか馬鹿竹のような正直な了見で物事を処理していただきたい。あなた方が馬鹿竹になれば夫婦の間、嫁姑(よめしゅうと)の間に起る忌(いま)わしき葛藤(かっとう)の三分一(さんぶいち)はたしかに減ぜられるに相違ない。人間は魂胆(こんたん)があればあるほど、その魂胆が祟(たた)って不幸の源(みなもと)をなすので、多くの婦人が平均男子より不幸なのは、全くこの魂胆があり過ぎるからである。どうか馬鹿竹になって下さい、と云う演説なの」
「へえ、それで雪江さんは馬鹿竹になる気なの」
「やだわ、馬鹿竹だなんて。そんなものになりたくはないわ。金田の富子さんなんぞは失敬だって大変怒(おこ)ってよ」
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