「叔母さん、この油壺が珍品ですとさ。きたないじゃありませんか」
「それを吉原で買っていらしったの?まあ」
「何がまあだ。分りもしない癖に」
「それでもそんな壺なら吉原へ行かなくっても、どこにだってあるじゃありませんか」
「ところがないんだよ。滅多(めった)に有る品ではないんだよ」
「叔父さんは随分石地蔵(いしじぞう)ね」
「また小供の癖に生意気を云う。どうもこの頃の女学生は口が悪るくっていかん。ちと女大学でも読むがいい」
「叔父さんは保険が嫌(きらい)でしょう。女学生と保険とどっちが嫌なの?」
「保険は嫌ではない。あれは必要なものだ。未来の考のあるものは、誰でも這入(はい)る。女学生は無用の長物だ」
「無用の長物でもいい事よ。保険へ這入ってもいない癖に」
「来月から這入るつもりだ」
「きっと?」
「きっとだとも」
「およしなさいよ、保険なんか。それよりかその懸金(かけきん)で何か買った方がいいわ。ねえ、叔母さん」叔母さんはにやにや笑っている。主人は真面目になって
「お前などは百も二百も生きる気だから、そんな呑気(のんき)な事を云うのだが、もう少し理性が発達して見ろ、保険の必要を感ずるに至るのは当前(あたりまえ)だ。ぜひ来月から這入るんだ」
「そう、それじゃ仕方がない。だけどこないだのように蝙蝠傘(こうもり)を買って下さる御金があるなら、保険に這入る方がましかも知れないわ。ひとがいりません、いりませんと云うのを無理に買って下さるんですもの」
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